町長所信表明
最終更新日:2025年4月7日
この度、邑南町長に就任しました大屋光宏でございます。本日、ここに町長就任後初めての議会にあたり、今後4年間の町政運営の基本的考え、方向性を表明し議員各位をはじめ、町民のみなさまのご理解とご協力を賜りたいと存じます。
まず、今日の世界、日本の社会全体をみますと、地球温暖化の要因となる環境問題、そしてエネルギー問題・人口問題等の社会的背景と人工知能・バイオテクノロジーを始めとする科学技術の飛躍的進歩により、私たちが培ってきた経験や常識は役に立たないほどの爆発的な変化に直面しています。そして、ロシアのウクライナ侵攻、新型コロナウイルス感染症の世界的流行はエネルギー資源の高騰につながり、今日の物価高を引き起こしています。また、国内では人手不足と働き方改革により急激な賃金上昇が続いています。そして今年はコメ不足により米価が急騰するなど、様々な要因が、複雑にからみあい予期することができないことが起こる時代となっています。
その変化のしわ寄せは、デジタル化等の技術進歩の成果が受けにくく生産性の向上が難しい邑南町のような地方の町に偏(かたよ)っています。人口減少による人手不足の影響は大きく、物価高騰もあり町民の生活不安・将来不安は大きいと感じています。
この激しい社会の変化に対応し地域課題を解決するためには、「柔軟な発想を持ち」「キャリア意識の高い」20代、30代の若い人たちの力が必要です。
しかしながら、邑南町には若い人たちの絶対数が少なく、かつ、子育ての負担と定年延長等もあり活躍の機会が減っているのも現状です。町の未来のためにも、まずは、若者応援・子育て世代の応援は必要と考えています。
社会の変化に合わせ、学校教育は大きく変わり大学入試・高校入試も変わってきています。これは、社会の変化の中で人間に求められる能力が変わってきているからです。「天才とは1%のひらめきと99%の努力」というトーマス・エジソンの言葉があります。残念ながら、私たちが「努力」により身に着けてきた知識と技能そして正確な作業態度は、ロボットや人工知能に置き換わってしまいました。これからの時代は、より一層「ひらめき」が求められます。
天才が生まれる場所には必ず豊かな自然と美しい景観があるといわれています。豊かな自然は「ひらめき」を生み出すために必要な「瑞々しい創造力」を養い、美しい景観の中には「ひらめき」のヒントが多く秘められています。
幸いなことに、邑南町には、断魚渓を始めとする美しい景観、オオサンショウウオが生息する豊かな自然、国の史跡に指定された久喜銀山遺跡、西蓮寺をはじめとする神社・仏閣そして神楽に代表される伝統芸能等の多くの「本物」が町内各地にあります。この豊かで美しい自然環境と多くの伝統芸能、確かな技術で培われてきた酒蔵やコメ作り等の地場産業はこれからの邑南町の町づくり、人づくりの大きな財産です。私は、先人のみなさんが作り上げ育ててきた邑南町を、守り受け継ぎそして発展させ次世代に引き継ぐことも大きな役割であると認識しています。
次に邑南町の現状を見ますと、人口は20年前の合併時の約13,000人から現在は9,500人に大きく減少しています。11年後の2035年の人口は約8千人と予測されています。さらに、令和5年度のUIターン者は川本町、美郷町、江津市等、近隣自治体が増える中で邑南町だけが32人と前年度の74人に比べ大きく減るとともに、10歳未満の子どもたちも令和3年以降の3年間で680人から570人に、町全体の人口減少率6%を上回る17%と大きく減っています。毎年の人口減少が250人を超える現状は、2035年の人口予測8千人を大幅に下回る可能性をもたらす憂慮すべき状況となっています。
また、町長選挙があったため来年度予算は、現時点では人件費、医療・福祉等の社会保障費、借金返済にあたる公債費を中心とした経常経費を主体とした骨格予算を編成していますが、すでに財源不足を生じ事業見直しをしなければならない状態です。新規事業を行う余裕はなく、邑南町の独自色を出し地域課題に向き合うのは難しい状況となっています。あわせて、大型投資が続いたため町の借金である地方債残高は普通会計で、令和4年度末の約137億円から令和7年度末は約198億円と60億円増加する見込みです。この返済と人口減少による地方交付税の減額を考えれば、将来長きにわたり厳しい財政運営を強いられているのは明確であります。
あわせまして、人口減少による人手不足、地域産業の担い手不足は、小売店・飲食店の休廃業の増加や農産物の生産減少、医療・介護・福祉サービスの維持困難につながり、住民の生活不安・地域の将来不安となるとともに若者世代・子育て世代に対する過度の負担を強いることとなり人口流出の原因となる悪循環が生じています。
このようなことから、住民サービスを維持し人口減少に対応した持続可能な町として次世代に引き継ぐため、まずは人口減少に対応した町に変革するための財政再建、そしてこれからの町づくりとして子育て応援・定住対策・産業振興による所得向上策を重点に取り組んでいく所存であります。
そして、私のこれからの町政運営の基本姿勢として、個人の尊厳を守り自分らしく活躍しながら生きられる社会、人とひとのつながりのある「住み心地の良いまち」邑南町を目指していきます。
具体的に、次の6点を重点的に取り組んでいきます。
1 情報公開と広報広聴活動の充実
今回の町長選挙は、近年感じられた町政への無関心さと閉塞感を打破し、住民の関心をこれからの町づくりの大きな原動力とするための、大事な選挙でした。現実、選挙戦においては、性別、地域、職業そして年齢等を問わず住民のみなさんの、これからの町政に対する関心の高さと期待、一人ひとりの思いの強さを感じました。その結果が80%に迫る高い投票率であったと思います。
誰もが平等に公平に社会参画できる仕組みづくりの第一歩として、まずは、町の公開すべき情報量を増やしていくとともに、皆さんの声を聴く機会を増やす、皆さんが意見・思いを伝える手段を増やすため、情報公開と広報広聴活動の充実に努めます。今ある、この住民のみなさんの関心の高さと思いの強さをこれからの町づくりの原動力とし、皆さんと一緒に「住み心地の良いまち」邑南町をつくっていきたいと考えています。
2 財政再建
邑南町の現在の財政は、標準財政規模の縮小・地方交付税の減額と人件費・扶助費・借金返済の公債費等の義務的経費の増額により非常に厳しいものがあります。加えて道の駅瑞穂の再整備をはじめとする大型投資の将来への財政運営の影響は非常に大きいものがあります。具体的には、財源不足から毎年度数千万円から1億円前後、財政調整基金を取り崩さなければ予算が組めない状態が続くと予測されています。財政調整基金の残高を考えれば、自ずと限界が見えてくる危機的状況です。
将来長きにわたり邑南町財政は非常に厳しい状態が続くことを考えれば、現行の行財政改善計画と公共施設等総合管理計画の着実な推進は絶対必要です。私の任期中の前半2年間において現在の財政状況の改善を行い、後半の2年間において大型投資による起債の償還が始まりさらに財政運営が厳しくなる可能性のある令和11年度以降の財政状況の改善に向けた財政再建を成し遂げたいと考えています。
そのためには、まずは現行の事業の大幅な見直しをしなければなりません。職員には、事務の合理化・生産性の向上・確実な事業成果・経費の節減は当然求めますが、一定程度は補助金の削減・事業の廃止等、町民のみなさんへの影響は生じると考えています。丁寧な説明に努めますので、まずは現状の財政状況をご理解いただき議員の皆さんをはじめ町民のみなさんのご協力をお願いしたいと考えています。
3 子育て応援・定住対策
現在の邑南町の大きな地域課題は、UIターン者の減少に起因する若年層の大幅な減少です。購買意欲の高い若年層の減少は、地域経済の衰退につながるとともに、介護、医療、福祉分野を中心とした事業所での人手不足と農業や地域での担い手不足となり、高齢者の生活不安と地域の将来不安につながる悪循環が始まっています。
また、都市部との賃金格差、人手不足による若年層への負担の増大、子育てへの金銭的な将来負担への不安は、若年層・子育て世代の離職と邑南町から都市部への人口流出につながっています。
子育世代・若年層へのさらなる施策の充実による応援とUターン、Iターンと分けることなく、さらに今邑南町に住んでいる人も含めて、住んでもらうためそして住み続けるための定住対策の実施が必要です。
このため、「日本一の子育て村」の看板を守るため、改めて目指すべき日本一の子育て村とはどうあるべきか協議し、邑南町の未来のために子どもたち、子育て世代、若者への施策を、何かあったときの不安や負担解消を中心として充実し応援します。
4 子どもたちへの学びの応援
都市部に人口が集中する日本において、豊かな自然・美しい景観に囲まれ育ち学ぶことのできる邑南町の子どもたちは日本の多様性維持の一翼(いちよく)を担う貴重な人材です。ふるさと教育は邑南町らしい教育の実施と子どもたちが社会に出たときに心の支えとなり、自分らしさを保つ根幹となります。さらなる「ふるさと教育」の発展に努めていきます。
また、子どもたちが将来の邑南町の担い手となるためには、私たち大人が確実で明るい邑南町の未来を示す必要と私たち自身がこの町にさらなる誇りを持つ必要があります。科学技術の進歩等の社会の変化が激しく、そして少子高齢化による人口減少等、厳しい地域課題を抱える邑南町においては、私たち大人も学び続けなければ、子どもたちに邑南町の未来を示すことはできません。子どもたち若者世代を応援し、お手本となる大人であり続けるため、社会教育の拡充に努め大人の学びも応援していきます。
そして、当然、子どもたちの学びを応援するため、学ぶ場所・学ぶ内容・学ぶ方法の充実を行うとともに、奨学金の整理拡充を行い、子どもたちが社会に飛び立つまでの長きにわたり学習機会の保障を行っていきます。
また、邑南町内の子どもたちの人数の減少を考えれば他の施設同様に小中学校の統廃合も必要となります。単なる数合わせではなく、子どもたちに邑南町らしい最良の学びを提供することと学習機会の保障を優先に今後2年間程度で結論を出すべきと考えています。
5 産業振興
邑南町には商工業、農林業を中心に多種多様な事業者・事業所があることが、この町の強みです。今ある農地を維持する、今ある多種多様な事業者・事業所を守り維持することを第一に産業振興を行います。
鳥獣被害対策と里山の景観整備を含め町内の大部分を占める森林の利活用を進めるとともに、現況の農地を維持するため農作物ごとの支援策を行います。技術革新や品種改良の恩恵を活かし生産性を向上させるため水稲を中心に新技術の導入を積極的に進めるとともに、農業全体の技術力向上と技術の多様性を図るため有機農業の推進を行います。
町民の生活を支える「商工業」については事業者数の減少を防ぐための経営の底支えと新技術の導入、販路拡大等を応援するため役場の商工業振興部門を強化します。安心して働き暮らせるよう「医療・福祉サービス」の維持充実のため、雇用の確保と必要な資格取得等の支援を事業者とともに考えていきます。
また、道の駅、霧の湯の大型投資を町の財産として、産業振興・観光の核として活用します。コロナ禍の反省から、東京等の遠方ではなく松江・出雲・広島方面の近隣での邑南町の知名度アップと誘客活動を行います。また、道の駅、香木の森、三江線鉄道公園を観光の起点とし、訪れた観光客が町内の他の施設や自然を体験する等、邑南町を「丸ごと楽しむ」、町内の周遊につながる観光振興を行います。
6 都市と地方の所得格差の是正のための可処分所得の向上
邑南町は島根県のデータ等から都市部に比較して5万円生活費が安いものの給料は8万円少ないことから、可処分所得で都市部と比較して月額3万円ほど低い状態です。この差の解消は子育て応援、定住対策、産業振興の成果あげるためには必要不可欠なことです。事業主が給料を上げるための環境整備、物価高騰対策や子育て応援等による負担軽減を通じて、月額3万円の可処分所得の向上を目指していきます。
以上が、私の今後4年間の町政運営の基本姿勢です。まずは、今の財政の危機的状況を改善する。そしてその果実で子育て応援、定住対策、産業振興を行い、その成果を地域全体で共有し、町民みなさんの生活不安・地域の将来不安の解消につながり町民福祉が向上する好循環を生み出します。
厳しい時代であっても着実に前進させ、邑南町を次世代に誇れる「住み心地の良いまち」とすることを、お誓い申し上げ、就任に際しての所信と致します。
令和6年11月11日
邑南町長 大屋 光宏
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